命の匂い


同じ知床ですが、いつもはあまり行かない
フィールドを散策してみようと思い、
長靴をドロドロにしながら歩んでいました。

すると僕の進む方向にある木々の向こう側に
茶色い毛の塊(かたまり)が動いています。
一瞬エゾシカの背中だろうと思ったのですが、
どうも違うなと双眼鏡でよく観察してみると
知床ではエゾシカやキタキツネに比べて
見かけることが年間とおしても少ない野生動物の
一つであるエゾタヌキでした。

嬉しくなって、気付かれないように
遠くからカメラで撮影し始めようとした時に
その姿や動きに違和感を感じました。
そして、もう一度双眼鏡でよく見ると
嫌な予感が的中してしまいました。
このエゾタヌキは『疥癬(かいせん)』という
一種の皮膚病に感染しています。
身体の左側が少し脱毛しており、
さらに僕は悲しい事実に気がついてしまいました。
しばらく観察を続けていましたが、、
ほとんど目が見えていないようなのです。

知床では1994年頃から疥癬が流行して
多くのエゾタヌキやキタキツネが命をおとしました。
しかし、近年ではその生息数は回復傾向にあると
いわれているのですが...。

こんなに天気がよくて明るい日に
こんな陰惨な事実に、、、と僕は考えてしまうのですが、
目の前のタヌキはそんな事を考えるより、
ただただ生きるんだと
土や枯葉を必死に掘っています。
その下の木の実や昆虫を探しているのでしょう。
たまに身体を一心不乱にかきむしって、
また毛がぬけるほどですから、
きっとすごく痛痒いはずなのに、その脚で掘るのです。
その行動は生きるエネルギーに満ち溢れています。

ほとんど見えない目で見つめる先を
鼻で・・・クンクン...と、匂いを、
この命を繋ぎとめようと、また歩き歩き。
・・・クンクン...クンクン...と匂いを探しています。
その姿はあまりに力強く、また儚げで、
壊れやすそうに、痛々しくも、輝いています。
生きるという事は、一方でこういう事なのかと
僕は思い知らされる場面でした。

この命にどうか幸あれ。
** I to U **BYつよし

○知床オプショナルツアーズのホームページはこちらです。
http://www.shiretoko.info/

風を聴く森*知床のブログ

今日の知床。四季の知床。動物・草花。自然ガイドの日記。 『知床ころぽっくる』ブログ。